非計画と体感的建築(住宅特集0506)

 

SANAAの金沢21世紀美術館のカフェで、「右に3回曲がるとトイレです」と教えられた。確かにそうとしか説明できない。カフェの案内図にも、◯に小さな□が並んだ美術館のプランが描いてある。ここは建築ではなくて、小さな都市というわけだ。

季節はずれの雪の中、現代美術館とは思えないほどの人々が公園を散策するかのように歩いている。展覧会には順路が描かれたプランが欠かせないが、ブラブラするには適当にこんなものかなっと歩けばよい。街歩きと同じ感覚である。丸いからそのうち元に戻るだろうという安心感もある。

地下には大きな駐車場や裏方が隠されていた。ふーんと思いながら見ていて、ミースのベルリン新国立ギャラリーに似ていることに気がついた。地上階に裏がないフラットな建築。その完全さに、完成後ミースが満足げにゆっくり見回っていたという逸話が残る。21世紀美術館も裏がない。しかも混沌とした街であり、無色な街でもある美術館。そこには、計画という垣根が取り払われたような新鮮な体感があった。

ヨコミゾマコトの富弘美術館でも同じような経験をした。配られたプランを見ながらうろうろと見学をしていたのだが、彼は、「意外と見ないで体感的に動けば大丈夫なんですよね」という。確かに、円形であることに囚われて頭の中に地図を描こうとすると混乱するのだが、こんな感じかなっと歩いていると、知らないうちにホームポジションに戻っている。求心的な動線となっていたが、サークルプランニングの本質が考えられているのではないかと思った。

つまり、どちらも計画を放棄する計画というわけだ。非ず非ずの計画とでもいうべきプランが、迷路でもあり、均質でもある新しい体感的建築を出現させている。(吉松秀樹)



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